


パイロットになるにはどうすればいいのかなあ……



女性はなかなかパイロットになれないのかなあ……
パイロットは、だれでもなれるチャンスがあります。学生だけでなく、社会人や女性にも門戸が開かれています。ただ、進路の選択を誤ると、夢を実現できません。
私はアメリカでパイロットとなり、2019年からは教官もつとめています。日本とアメリカの航空業界については、だれよりも熟知しています。
ここではそんな私が、パイロットになるにはどんな方法があるのかを詳しく解説します。お金はどのぐらいかかるのか、社会人からでもパイロットを目指せるのかなど、みなさんの疑問に徹底的に答えます。
この記事を読めば、夢の実現に向け、いまなにをすればいいのかがわかります。
エアラインパイロットの魅力
ひと言でパイロットといっても、農薬散布する飛行機から旅客機まで、さまざまな仕事があります。ここでは主に、航空会社の旅客機を運航するエアラインパイロットに絞ってお話したいと思います。
まずは、エアラインパイロットの仕事の中身や、その魅力をご紹介します。
パイロットはやはり高年収
多くの皆さんが気になるのは年収ではないでしょうか。実際には、航空会社によってまちまちです。さらに、入社年次によっても違います。具体的には、機長か副操縦士かで手取りに大きな差が出ます。
さらに、もうひとつアタマに入れておいてほしいのは、ざっくり言うと、基本給+乗務手当が手取りです。つまり、乗務が少なければ少ないほど、手取りは減る仕組みです。
ですから、コロナの影響などで乗務日数が減ると、手取りは減少します。航空会社によっては、月のフライトがまったくなくても、最低限の乗務手当を保証しているところもあります。
このように、一概にはなかなか言えないというのを前提に、あえて日本の航空会社のパイロットの年収をざくっとお伝えすると、以下のような相場感です。
- 大手航空会社
機長1,800万円~3,000万円 副操縦士900万円~1,700万円 - LCC(格安航空会社)
機長1,200万円~2,000万円 副操縦士700万円~1,100万円
これを見てもわかるように、パイロットは一般的なサラリーマンよりは高収入といえます。
パイロットの勤務は完全シフト制
パイロットの勤務は、どの機種に乗務するかによって異なります。大型機に乗務すると、国際線と国内線の両方を飛ぶことになりますし、小型機の場合は国内線が中心です。乗務する機種が就航している目的地には、国内外問わずフライトします。
勤務地は、乗務員のベースがある空港です。複数のベースがある航空会社もあります。大手航空会社なら羽田・成田、そのほか関西空港や、新規航空会社のなかには地方空港がベースというケースもあります。
パイロットの勤務がどんな感じかをイメージできるよう、ある日本の大手航空会社に勤務する機長の1か月のシフトをご紹介します。ご紹介するのは、コロナ前のシフトです。コロナ後は、どのパイロットも乗務日数が大幅に減っているためです。
- 1日・・オフ
- 2日・・オフ
- 3日・・羽田→広島→羽田→松山(泊)
- 4日・・松山→羽田→福岡→羽田
- 5日・・午後スタンバイ
- 6日・・社内業務
- 7日・・オフ
- 8日・・オフ
- 9日・・成田→シカゴ
- 10日・・現地泊
- 11日・・シカゴ→
- 12日・・→成田
- 13日・・オフ
- 14日・・オフ
- 15日・・オフ
- 16日・・羽田→那覇→羽田
- 17日・・終日スタンバイ
- 18日・・羽田→千歳→羽田→伊丹(泊)
- 19日・・羽田へデッドヘッド後、羽田→鹿児島→羽田
- 20日・・オフ
- 21日・・オフ
- 22日・・オフ
- 23日・・成田→ワシントンDC
- 24日・・現地泊
- 25日・・ワシントンDC→
- 26日・・→成田
- 27日・・オフ
- 28日・・オフ
- 29日・・オフ
- 30日・・社内業務
- 31日・・午後スタンバイ
このなかにある「デッドヘッド」とは、パイロットが客として飛行機に乗ることです。「スタンバイ」は、本来乗務するパイロットが体調不良などで乗務できなくなる場合に備えて、交代要員として待機する勤務です。
パイロットは、比較的、休みが多いのがわかると思います。ただこの間に、次のフライトの準備をしたり、体調を整えたりしなければなりません。
世界各地を飛べる
世界各地に行けるのもパイロットの魅力です。いまやLCCでも国際線に進出しています。パイロットにとって、同じ日は1日たりともありません。仮に行き先が同じでも、天気が違えばフライトの中身はまったく異なります。
私自身も世界各地を飛びました。イタリアの空港に着陸するとき目の前に見えるアルプスや、シカゴに着陸するとき眼下に広がる大都会、無線で中国語が飛び交い常に大混雑の北京…など、毎日が変化の連続です。
パイロットになる方法や必要なお金
ここからは、具体的にパイロットになる方法をご紹介します。日本のエアラインパイロットになるには、主に4つの方法があります。
どの方法でパイロットになるかによって、必要な出費も違います。
航空大学校
パイロットを育成する独立行政法人の教育機関です。25歳未満で4年制大学に2年以上在籍したことなどが出願の条件です。
入学試験の内容は次のとおりです。
- 1次試験・・計算処理、空間認識、英語、時事問題、数学などの筆記
- 2次試験・・身体検査
- 3次試験・・面接と操縦適性検査
合格すると、宮崎、帯広、仙台で24か月間にわたる訓練が行われます。卒業時には、各エアラインの採用試験を受験し、希望の会社のパイロットを目指します。
学費は次のとおりです。
- 入学料・・282,000円
- 宮崎学科課程・・668,000円
- 帯広フライト課程・・802,000円
- 宮崎フライト課程・・802,000円
- 仙台フライト課程・・936,000円
これに加えて寮の費用が月額1,500円と食費(実費)などがかかります。
注意が必要なのは、航空大学校を卒業したからといって、100%エアラインパイロットになれる保証はないことです。コロナによって、各航空会社の採用意欲が衰えているときは、採用数が絞られます。必然的にどの航空会社からも内定を得られない学生が出てきます。
もともとコロナの前からも、必ずしも全員がエアラインパイロットになれるとはかぎりませんでした。エアラインパイロットになれなかった学生は、測量や遊覧飛行などをしている民間の航空事業会社に就職したり、海上自衛隊に入ったりしています。
自社養成
自社養成は、大手エアラインを中心に、パイロット候補生として採用後に訓練を行うというものです。ですから、採用の段階では、パイロットライセンスは必要ありません。飛行機の知識も問われません。
ANAとJALがこれまで自社養成で多くのパイロットを育成してきました。ピーチなど一部のLCCでは、訓練費の一部を会社が負担し、実費となる部分はローンで借り入れられる制度を設けています。
しかし、新型コロナウイルスの影響で各社とも今後の採用は未定で、HPで随時チェックする必要があります。
ただ、自社養成の最大の利点は、採用されれば原則としてパイロットになれることと、一部のLCCをのぞけば、お金がかからないことです。むしろ、採用後の訓練となるので、わずかながら給料をもらい訓練を受けます。
航空会社としても、自社養成の訓練生は1人残らず1人前のパイロットに育て上げようと必死です。
私立大学
最近は、私立大学のパイロット養成コースを卒業し、航空会社に入社するケースも増えています。パイロット養成コースがある主な大学は以下のとおりです。
- 東海大学
- 桜美林大学
- 法政大学
- 崇城大学
それぞれの大学には、エアラインパイロットのOBが教授として在籍し、就職の支援を熱心に行っています。東海大学はANA、ほかの大学はJALのOBが在籍しています。
学費は初年度が130万円から280万円程度です。私立大学の場合も注意が必要なのは、卒業したからといって、エアラインパイロットとして航空会社に採用される保証はありません。入学前に、各大学の卒業生の進路をしっかり確認しましょう。また、コロナ後も就職できているかを確認することは大切です。
社会人でもパイロットになる道はある
社会人でも、パイロットへの道は開かれています。現実的には30代半ばまででしょうか。その場合、次のいずれかの進路が一般的です。
- 私立大学のパイロット養成コースに入学する
- 航空事業会社で個人でパイロットライセンスを取得する
- 海外でライセンスを取得する
私立のパイロット養成コースに年齢制限はありません。大学は、何歳になっても入学できるからです。ただ、卒業したからといって、航空会社に採用されるかどうかは別問題です。入学にあたっては、各大学に在籍しているエアラインOBなどに自分の年齢を伝えて、事前に相談することをおすすめします。
航空事業会社とは、具体的には、埼玉県にある本田航空や、大阪府にある朝日航空などです。チャーター飛行や遊覧飛行、パイロットの養成などをしています。
ライセンス取得までの費用は、個人差が大きいでしょう。航空事業会社の訓練費は、時間単価で計算されます。訓練につまずくと、それだけ長い時間を費やさなければいけないため、費用はかさみます。
また、訓練の一部をアメリカで実施している朝日航空は、国内で実施している本田航空よりは訓練費が安くなる傾向にあります。
なので、必要なライセンスを取得するのに必要な金額は一概に言えませんが、トータルで1,000万円から3,000万円ぐらいはかかるとみたほうがいいでしょう。
海外のフライトスクールでパイロットライセンスを取得する方法もあります。この場合には、日本の航空会社だけではなく、その国でパイロットとして働く道も開けてきます。



海外でパイロットになる方法については以下の記事で詳しく解説しているよ!
【海外でパイロットになる】コロナの影響や留学費用を経験者が解説!




パイロットになるには文系・理系問わない
パイロット志望者の方からよく受ける質問に、文系と理系、どちらが有利かというものがあります。正直、文系・理系は問いません。採用においても、有利・不利はありません。
パイロットに求められるオールラウンドの知識
文系・理系問わない理由は、パイロットにはオールラウンドな知識が求められているためです。パイロット訓練で学ぶシラバスをご紹介すると以下のような内容です。
- 航空法規
- 航空力学
- 飛行機のシステム
- 気象
- 空港のマーキング
- 無線交信の方法
- 高度が体に及ぼす影響
- クルー同士のコミュニケーション
- リスクマネジメント
これらは訓練シラバスの一部にすぎません。見てわかるように、文系と理系、双方の内容が含まれています。
ですから、もし大学進学で迷っている人がいれば、学部は関係ありません。そこは心配せず、自分が目指す大学の学部に入るといいでしょう。
パイロットには英語力が必要
パイロットに避けて通れないのは英語力です。自社養成では訓練の一部を海外で行っています。自社養成以外でも、航空の専門用語は英語が基本です。
パイロットになってからも英語は必要です。操縦室内では、クルー同士、英語でやりとりします。管制官との無線交信も、日本国内でも英語です。国際線を飛ぶとなれば、相手の管制官は日本語を理解できません。英語が頼みの綱です。



パイロットに求められる英語力については以下の記事で詳しく解説しているよ!
【パイロットになるのに必要な英語力】現役パイロットが教えます




女性が不利ということはない
文系・理系で有利・不利がないのと同じように、女性だから不利になるということもありません。実際に日本のエアラインでも、女性パイロットが増えています。
ただ、アメリカなどとくらべると、女性パイロットの数はまだまだ少ないのが現状です。出産や育児などのブランクが生じた際に、どうスムーズに復帰できるかが課題です。航空会社側もこうした課題を認識し、女性パイロットが復帰しやすい環境の整備を始めています。女性だからと負い目を感じることなく、堂々とパイロットを目指してほしいと思います。
パイロットになるには適性も必要
パイロットになるには、「適性」も必要です。努力だけではどうにもできない部分もあります。パイロットにはどんな適性が必要なのか、ご紹介ます。
航空身体検査をパスできる健康
重要な適性のひとつが健康です。パイロットは航空身体検査をパスできないと、飛ぶことができません。
多くの人が心配するのが視力ではないでしょうか。いまでは裸眼の視力の基準は撤廃されています。エアラインパイロットは、矯正して右目も左目も0.7以上の視力が必要です。角膜屈折矯正手術(レーシック)も“解禁”されているため、以前にくらべればずいぶん緩和されています。
コミュニケーション能力
各航空会社は、コミュニケーション能力を重視しています。飛行機がハイテク化するなかで、操縦技術以上に、機長と副操縦士のコミュニケーションの重要性が高まっているからです。
航空会社の訓練では、CRM(Crew Resource Management)と呼ばれるレッスンがあります。これはひと言でいえば、機長と副操縦士のコミュニケーションをどう改善させるかという内容です。
過去の航空機事故をみても、コミュニケーションに問題があり、重大な事故につながっているケースもあります。機長が間違ったとき、副操縦士が的確に指摘できるか、指摘された機長はcorrective action(行動の修正)ができるかが、安全運航の要です。
努力できること
最後に、「努力できること」もパイロットにとっては重要です。パイロットになると、試験の連続です。さまざまな試験や審査をパスしなければ、乗務できなくなってしまいます。
努力するには、モチベーションも必要です。飛行機が好きだという気持ちが、個人的には大切だと思っています。
まとめ
新型コロナウイルスの影響で、航空会社をめぐっては暗い話が続いています。しかし、パイロットの採用については、各航空会社とも実は前向きです。
背景には、近い将来、いまいるパイロットが一斉に定年退職を迎えることがあります。「2030年問題」と呼ばれ、2030年前後に航空会社は深刻なパイロット不足に陥ることが予想されています。この問題については以下の記事で詳しく解説しています。
【パイロット2030年問題】コロナでも今後採用が増える理由!




パイロットは多くの学生、社会人、女性に門戸が開かれています。どの方法を選ぶかによって、かかるお金などが大きく変わってきます。進路の選択はじっくり考え、ぜひパイロットになるという夢を実現してください。