【航空管制官になるには】仕事の中身と受験方法をパイロットが解説!

航空業界

航空管制官になるにはどうすればいいんだろう……

航空管制官ってどんな仕事なんだろう……

航空管制官の採用試験の合格率は10%から20%程度。航空管制官になるにはどうすればいいかを理解していないと、夢は実現できません。

私は英語を独学しアメリカでパイロットとなりました。飛行中、管制官とは常に無線でやりとりをしています。個人的に付き合いのある航空管制官もいて、管制官の仕事の内容は知り尽くしています。

ここではそんな私が、航空管制官になるにはどうすればいいかを詳しく解説します。

この記事を読めば、管制官になるためにいま何をするべきかがすべてわかります。

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航空管制官になるには仕事の中身を理解しよう

航空管制官になる方法について解説するまえに、まずは、どんなの仕事なのかをご紹介します。

飛行機がA空港を出発してB空港に到着するまでに、パイロットは何人もの管制官と無線でやりとりをします。イメージ的には、ひとりひとりの管制官が受け持つエリアを通過するたびに、次のエリアの管制官と会話する感じです。

たとえば、羽田空港から関西空港まで飛ぶ場合、パイロットは三浦半島までは羽田の管制官、そのああとは次の管制官にコンタクトし、伊豆半島を越えるとまた次の管制官、紀伊半島に近づくと次の管制官へ……といったイメージです。

航空管制官になるには、こうした仕事の中身をまずは正確に理解することが必要です。

空港の管制塔で働く管制官

もっとも航空管制官らしい仕事は、空港の管制塔で働くことです。みなさんも空港に行くと、高い管制塔があり、いちばん上のガラス張りの部屋に、管制官の姿が見え隠れするのを見たことがあるのではないでしょうか。

管制塔で働く管制官の仕事を飛行場管制業務といいます。空港に駐機している飛行機や誘導路上の飛行機、滑走路上の飛行機に指示を出す仕事です。

具体的には、次の3つの仕事があります。

  • クリアランス・デリバリー(Clearance Delivery)
    →出発前の飛行機に目的地までの飛行ルートの指示・許可を出す。
  • グラウンド(Ground)
    →誘導路上の飛行機に指示を出す。
  • タワー(Tower)
    →滑走路上、またはその周辺の飛行機に指示を出す。

管制塔にはこの3つの役割をこなす管制官が3人います。飛行機の数が少ない地方空港などでは、1人で3役こなすこともあります。3人の管制官は、管制塔から実際の飛行機を見ながら交信します。

成田やアメリカのシカゴなど、巨大空港になると、グラウンドが2つや3つに分かれていたり、滑走路ごとに異なるタワーの管制官がいたりします。

パイロットは、出発前にまずクリアランス・デリバリーから目的地までの飛行ルートの指示を受けます。そのあと、ゲートから出るときにグラウンドにコンタクトし、滑走路に近づいたらタワーから離陸の許可をもらうといった流れです。

空港内の管制塔ではない場所で働く管制官

管制塔で働かない管制官もいます。ターミナル・レーダーと呼ばれる仕事です。空港内の窓がない部屋で、機影が映し出されるレーダー画面と向き合いながら、パイロットと交信します。

ターミナル・レーダーの仕事は次の2つです。

  • ディパーチャー(Departure)
    →滑走路を飛び立って上昇する飛行機に指示を出す。
  • アプローチ(Approach)
    →水平飛行から空港に向けて降下する飛行機に指示を出す。

私たちパイロットはタワーの管制官から離陸の許可をもらい飛び立つと、すぐにディパーチャーにコンタクトします。ディパーチャーの管制官は、飛行機同士の安全な間隔を保つため、右行け、左行けなどと指示をします。

アプローチは目的地に近づいたときにパイロットがコンタクトする管制官です。アプローチはディパーチャーと同じように、右行け左行けなどと指示を出し、飛行機同士が安全な間隔を保てるよう滑走路へと誘導します。

空港で働かない管制官

空港で働かない管制官もいます。航空交通管制部と呼ばれるところで働く管制官です。ここの管制官は、簡単にいうと、水平飛行中の飛行機と交信します。

航空交通管制部は日本国内に4か所あります。

  • 札幌
  • 東京
  • 福岡
  • 那覇

それぞれの航空交通管制部は、いくつもの空域に分かれ、空域ごとに別々の管制官が受け持っています。

羽田空港から福岡空港に飛ぶ場合だと、東京航空交通管制部の3つほどの空域を通過します。つまり、3人の管制官と交信します。そのあと、岡山県と広島県の県境あたりで、福岡航空交通管制部の空域に入ります。

到着するまでに、福岡航空交通管制部の2つほどの空域を飛行し、2人の管制官と交信します。そして、高度を降ろし、福岡空港のアプローチの管制官に引き継がれる流れです。

航空無線の実際のながれは以下の記事に詳しく書いているよ!

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航空管制官の仕事の魅力

航空管制官の仕事の魅力は、安全運航のために、自分の判断ひとつで飛行機を自由に操れることだと思います。

民間航空機は管制官の許可がなければ、ゲートから出発することもできません。飛び立ったあとも、雨雲を避けようと旋回したければ、ひとつひとつ管制官の許可が必要です。

逆に管制官から右に行け、左に行けと指示されたことは、原則、従わなければなりません。管制官が飛行機を飛ばしているようなものです。

私たちパイロットは「きょうの管制官はうまいなあ」とか、「きょうの人はちょっとなあ……」と思うことがよくあります。

飛行機のスムーズな運航は腕の見せどころ

管制官の力量が問われるのは、特にグラウンドとアプローチだと思います。

みなさんは飛行機に乗っていて、ゲートから出て離陸するまで、ずいぶん時間がかかるなと思ったことはありませんか。

羽田や成田など交通量の多い空港では、地上の誘導路で “渋滞” が起きることがあります。管制官の腕前がいいとスムーズに滑走路までたどりつけることがありますが、要領が悪いとあちこちで一時停止させられ、なかなか滑走路までたどりつけないこともあります。

アプローチの管制官は、まさに芸術的な差配です。時速数百キロのスピードで一斉に空港に近づいている複数の飛行機に、飛ぶ方向や速度、高度などを矢継ぎ早に指示し、2~3分の間隔で安全に着陸できる流れをつくっています。

緊急時の対応

緊急時の対応も腕の見せどころです。私は幸い、緊急事態のようなトラブルに遭遇したことはありませんが、「エンジンが止まった」「車輪が降りない」などパイロットからの交信に、地上からできる限りの支援をします。

別の空港に着陸できるよう段取りをしてパイロットに伝えたり、トラブルが起きた飛行機が優先的に着陸できるようほかの飛行機をう回させたりなどです。

過去の航空機事故のテレビ番組や、YouTubeなどで公開されている事故時の交信記録を聞くと、管制官が大切な役割を担っていることがよくわかります。

航空管制官になるには

航空管制官は全員、国家公務員です。国土交通省の職員になります。ただ、採用は一般の国会公務員とはまったく異なります。別枠です。詳しく解説します。

航空管制官採用試験を受験

航空管制官になるには、「航空管制官採用試験」を受験し合格する必要があります。受験資格は以下のいずれかを満たす場合です。

  • 21歳未満で大学・短大・専門学校の卒業、または卒業見込み
  • 21歳以上30歳未満

試験内容は次のとおりです。

  1. 1次試験
    ・基礎能力試験・・公務員として必要な基礎知識
    ・適性試験1部・・記憶力や空間把握力など管制官としての必要な資質
    ・外国語試験(聞き取り)
    ・外国語試験(選択式)
  2. 2次試験
    ・外国語試験(面接)
    ・人物試験
  3. 3次試験
    ・適性試験Ⅱ部
    ・身体検査
    ・身体測定

採用試験では英語が重視される

航空管制官になるには一定の英語力が必要です。採用試験でも英語は重視されています。採用試験では筆記や聞き取りのほか、英語での面接まであります。

背景には、日本の航空管制官の英語力が、世界の水準とくらべて低いという指摘があるからです。外国人パイロットとの意思疎通がうまくいかないことがあるからです。私もパイロットとして無線を聞いていて、日本では管制官が意思疎通に苦労している場面に何回も遭遇したことがあります。

英語は航空管制官になってからも“商売道具”のようなものです。いまからしっかり学んでおいて損はありません。

航空管制官の採用試験対策は以下の記事で詳しく解説しているよ!

【航空管制官の採用試験対策】業界通の現役パイロットが解説!

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人気職業のひとつ航空管制官。採用試験の対策を知りたい人も多いのではないでしょうか。この記事では、航空業界を知り尽くした現役のパイロットが管制官の採用試験対策を解説しています。合格率10%前後という狭き門を突破したい人必見です!

航空保安大学校で研修

採用試験に合格しても、すぐに航空管制官としてデビューできるわけではありません。航空管制官になるには、航空保安大学校で8か月の研修を受ける必要があります。管制官の養成施設で、大阪の泉佐野市にあります。

ここで、空港の模擬セットを前に、マイクを持ち飛行機に指示を出す練習をします。管制官とパイロットの会話は英語です。国内線でも英語でのやりとりになります。航空保安大学校では、英語の管制用語も覚えることになります。

全国各地に配属

8か月間の訓練を終えると、全国各地の空港、または航空交通管制部に配属されます。国家公務員なので全国異動です。ただ、希望を出すことができ、出身地や家族状況などは考慮に入れてくれるようです。

航空管制官になるには“冷静さ”も大切

大勢の管制官と接してきた経験から、管制官には必要な資質があると思います。以下にご紹介します。

細やかな神経

管制官になるには、細やかな神経を持っていることが必要だと思います。わかりやすくいえば、いろんなことに気づくとか、気づいたうえで心配りできるとか、そういった資質です。

管制官は自分が担当する空域やエリアにある複数の飛行機を1人で担当します。それぞれの飛行機の動きに目を配る必要があります。もしパイロットから、雲を避けるために進路を右に取りたいなどのリクエストがあったとき、ほかの飛行機の動きも考えながら、リクエストを認めるかどうか判断しなければなりません。

パイロットからのリクエストを認めるか認めないかの二択ではなく、どういう状況になれば認められるかなども考える必要があります。

冷静・沈着さ

管制官になるには冷静・沈着さも欠かせません。多くの飛行機が集中する時間帯でも、パニックにならず、冷静に1機1機の飛行機に指示を出す必要があります。

緊急事態の場合も、誰よりも冷静でいなければならないのは管制官です。ストレス下にあるパイロットに落ち着いた口調で話しかけ、無事着陸できるようアシストしなければなりません。

コミュニケーション能力

コミュニケーション能力はとても大切です。管制官はパイロットと無線を通じて言葉で意思疎通をします。指示が不明確だったり、パイロットからのリクエストに対する対応がいい加減だったりでは、良い管制官とはいえません。

英語力

管制官になるには、なんといっても英語力が欠かせません。国際線だろうが国内線だろうが、やりとりはすべて英語です。

成田空港や関西空港に配属されれば、海外のパイロットとも交信します。海外のパイロットは、管制の専門用語だけでなく、ふつうの英語で話しかけてくることもあります。

いまのうちに英語力を磨いておくことをおすすめします。

航空管制官に必要な英語力については以下の記事で詳しく解説しているよ!

【航空管制官に必要な英語力】現役パイロットが実態と対策を公開

【航空管制官に必要な英語力】現役パイロットが実態と対策を公開
航空管制官はどれほどの英語力が必要か知りたいですか?この記事では、現役のパイロットが航空管制官に必要な英語力を実例とともに解説しています。航空管制官を目指している人必見です。

まとめ

管制官は世界各国のパイロットと話をして、自分の判断で飛行機を誘導できる魅力ある仕事です。管制官の人気は今後高まり、狭き門になるかもしれません。新型コロナウイルスの影響で、航空業界は軒並み採用が凍結されたり、採用数を絞ったりしているからです。

いまのうちから仕事の内容を理解するとともに、航空管制官になるにはどうずればいいか、正しく理解することが必要です。いまからできる準備をし、ぜひ夢を実現してください。

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