
コロナ後のパイロットの採用はどうなるんだろう……

パイロットになる夢をあきらめる必要はないのかなあ……
航空業界は新型コロナウイルスの影響で大きな打撃を受けながらも、パイロットの採用はかろうじて継続しています。しかし、パイロット志願者は、航空業界の先行きなどをしっかり把握しておかないと、夢を実現できません。
私はアメリカでパイロットとなり、いまは飛行教官をつとめています。日米双方の航空業界には精通しています。
ここではそんな私が、パイロットの採用が今後どうなるか、先行きなどを解説します。
この記事を読めば、パイロットになる夢の実現への道のりが明確になります。
パイロットの採用はコロナの影響で“大誤算”
パイロット志望者は、まず航空会社が新型コロナの影響でどれほど打撃を受けたのかをしっかり把握しておきましょう。IATA(国際航空運送協会)によると、2021年の世界の航空業界全体の売り上げは、コロナ前の水準の半分にとどまるという見方を示しています。
航空会社は世界的に大打撃
世界の航空会社が受けた打撃は計り知れません。次のような危機的な発表が相次いでいます。
- ヴァージン・オーストラリア航空が経営破綻
- タイ国際航空が会社更生手続き申し立て
- アリタリア航空が国有化
- キャセイパシフィック航空の子会社が事実上の経営破綻
アメリカの航空会社も深刻です。政府からの雇用支援が延長され、なんとか持ちこたえていますが、大手3社はそれぞれ従業員の3割前後の削減を発表しています。
- アメリカン航空 ・・・1万9,000人人員削減
- ユナイテッド航空 ・・・1万2,000人超の人員削減
- デルタ航空 ・・・すでに1万7,000人が退社
パイロットについては入社年次(seniority)の浅い人からレイオフ(一時解雇)が徐々に始まっています。
アメリカの大手航空会社で飛んでいる私の友人で、コロナ前にF/O(副操縦士)からキャプテン(機長)に昇格したパイロットがいます。彼は入社年次は古いほうだったのでレイオフはされていませんが、再びF/Oに降格されてしまいました。
日本の航空会社も深刻な影響
日本でも2021年3月期決算について、ANAホールディングスが過去最高の5,100億円の赤字、日本航空も2,300億円の赤字を見込むなど、深刻な影響が広がっています。
パイロットの手取りも減っています。減便によって乗務手当が減ったり、ボーナスが減額されたりしているからです。
パイロットの採用にも影響
コロナはパイロットの採用にも影響を与えています。パイロットの訓練が一時凍結したり、採用人数が大幅に縮小されたりしています。今後の航空会社の経営状態によっては、パイロットの採用が全面凍結という事態も考えられます。
コロナ前までは、パイロット不足が叫ばれていました。ライセンスさえ取得していれば、パイロットとして食べていける環境でした。しかし、コロナによって、航空業界の風景は一変してしまったのです。
パイロットの採用はかろうじて継続
航空会社は厳しい経営環境のなか、パイロット候補生を採用して自前で育成する「自社養成」は継続しています。ここで、パイロットの採用ソースについて、簡単におさえておきます。主に以下の4つのルートですす。
- 自社養成 ・・・航空会社に入社してから訓練を受けパイロットに
- 航空大学 ・・・卒業後、航空会社の入りパイロットに
- 私立大学 ・・・パイロット養成過程を卒業し航空会社に入る
- 海外ライセンス・・・海外で自力でライセンスを取り航空会社に入る
ちなみに私立大とは、東海大や法政大、桜美林大、崇城大などです。

パイロットになるにはどうすればいいのかという基本的なことについては、以下の記事を参考にしてみて!
【パイロットになるには?】現役パイロットが語る失敗しない方法

自社養成は各社とも継続
自社養成については各社とも継続しています。自社養成は、大学や大学院を卒業した人が、1から訓練を受けパイロットになるコースです。訓練費用はすべて会社が負担します。
コロナの影響で、海外での訓練が一時ストップするなどしましたが、各社とも基本的に訓練は継続しています。日本のエアラインパイロットを目指すなら、自社養成がいちばん確実な方法です。
背景には2030年問題も
航空会社がパイロットの採用を継続する背景には、次の2つの要因があるとみられます。
- パイロットの育成には4年ほどかかる
- 2030年にパイロットの大量退職を迎える
日本ではかつてバブル経済崩壊後、コストのかかるパイロットの採用を減らした航空会社があります。その会社は当時、自社養成も凍結していました。
その結果、景気が回復して事業を拡大しようとしても、パイロットの育成が追いつかず、事業が拡大できなかった経緯があります。こうした苦い経験を教訓に、パイロットの採用はコンスタントに続けることが、日本の航空会社の“常識”になりつつあります。
もうひとつは、2030年ごろにパイロットが大量に定年退職を迎えることです。1986年から1990年ごろのバブル時代に大量に採用したパイロットが、このころ定年を迎えます。大量のパイロットが抜けた穴埋めは容易ではありません。
ですから実は各航空会社とも、いまはたくさんのパイロット候補生を採用したいという潜在的な思いはあるのです。


いわゆる“2030年問題”については以下の記事で詳しく解説しているよ!
【パイロット2030年問題】コロナでも今後採用が増える理由!



自社養成以外では暗雲も
自社養成以外の、航空大学や私立からエアラインパイロットになる道は、険しくなるかもしれません。
航空会社は、数ある採用ソースのうち、自社養成のパイロットを優先します。コストをかけて育てた“金の卵”だからです。ですから、採用数を少し絞ろうとなったとき、その影響は航空大学や私立大学の卒業者に及ぶでしょう。
実際に過去に景気が悪くなったとき、航空大学を出てもエアラインに就職できないというケースが多くありました。
いっぽう、パイロット養成コースがある東海大学では、2021年の航空操縦学専攻の新入生の受け入れ中止を発表しています。アメリカでの訓練が、コロナの影響でできないためです。
パイロットの採用試験に向けいますべきこと
ここからは、パイロット志望者がいまこの時期にすべきことは何なのかや、注意点を解説します。
情報収集をしっかりと
いますべきもっとも重要なことは「情報収集」です。もともと就活では情報が命ですが、コロナの影響で先行きが不透明ないまは、これまで以上に「情報収集」がカギになります。
ポイントは、“入り口”ばかり考えず“出口”も考えるということです。パイロットを目指している人は、どうすれば航空大学や自社養成の試験に受かるかという“入り口”のことばかり考えがちです。当然、重要なことです。ただ、それと同時に、自社養成以外の場合、卒業後に本当にパイロットになれるかどうかという視点で最新の情報を集めることが大切になります。
航空大学や私大の卒業生の就職状況などは入念にチェックしましょう。リスクと自分の夢の実現という2つをてんびんにかけ、納得のいく進路の選択をすることが重要です。
パイロットに必要な英語を身につける
もうひとついますべきことは、英語力をつけることです。英語は、航空大学にしても自社養成にしても、受験の際に必要となります。自社養成や私大は、訓練の一部を海外で実施しています。英語ができないと、訓練についていけません。
英語はパイロットになってからも必要となります。いまのうちに、一定レベル以上の英語力はつけておいたほうがいいでしょう。


パイロットに必要な英語力については、以下の記事で解説してるよ!
【パイロットになるのに必要な英語力】現役パイロットが教えます



航空身体検査対策も
航空身体検査にパスできる健康状態を維持しておくことも大切です。航空身体検査にパスできないと、パイロットとして飛べなくなってしまいます。
健康状態は加齢とともに衰えていきます。航空会社側からすると、入社時点でギリギリ検査を通過できる人よりも、ある程度余裕を持ってパスできる人のほうが安心して採用できます。
ストイックな生活までは必要ありませんが、目を大事にする、食生活に気をつけるといった、基本的なことは実践するようにしましょう。
海外のパイロットの採用に応募する
海外でパイロットになる道もあります。私自身、図らずもアメリカでパイロットとなりました。海外でパイロットとして働くことは、決してハードルが高いわけではありません。
就職口は“エアライン”から“農薬散布”まで
たとえばアメリカの場合、パイロットの仕事としては、次のようなものがあります。
- エアラインパイロット
- 企業のコーポレートジェットパイロット
- 航空写真専属パイロット
- 救急患者を搬送するメディカルパイロット
- 農薬散布のパイロット
これ以外にも、仕事の口はたくさんあります。特にアメリカは航空業界のすそ野が広く、求人は常にあります。最初から海外で働くことを目指すなら、海外でパイロットライセンスを取得するほうが、効率がいいかもしれません。


海外でパイロットライセンスを取得する方法については以下の記事を参考にしてみて!
【海外でパイロットになる】コロナの影響や留学費用を経験者が解説!



アメリカのエアラインパイロットになるには“たたき上げ”
日本人でも、アメリカのエアラインパイロットになることはできます。ただ、アメリカのエアラインは、日本のような自社養成はありません。それどころか、採用試験の受験資格に、たとえばユナイテッド航空だと、最低飛行時間が1,000時間という記述があります。
まだ採用されてもいないのに、どうやって1,000時間の飛行時間を稼ぐかというと、まず大前提として、パイロットライセンスをすでに取得している人が対象です。そのうえで、先ほどご紹介した企業のお抱えパイロットや農薬散布などの仕事で飛行時間を稼いでから、大手エアラインの門戸をたたくのが一般的です。
アメリカのエアラインのパイロットは、こうした“たたき上げ”か、元海軍や元空軍のパイロットのどちらかです。アメリカ人のパイロットでも、最近はたたき上げの人が増えています。
エアラインパイロットが人気とは限らない
アメリカでは、パイロット志願者がみんな必ずしもエアラインを希望していません。それは、エアラインパイロットより待遇のいい仕事があるからです。大手企業のお抱えパイロットは、年次の浅いエアラインパイロットよりは一般的に高給取りです。
アメリカのエアラインは、入社年次の古い人から、好きな勤務地や好きな機種を選べます。毎月のスケジュールも、入社年次の古い人から乗務したい日時や便を決めていきます。
その結果、雪でダイヤが乱れがちなシカゴ勤務で、クリスマスの深夜のフライトなど、だれも乗務したくない便などは、新人パイロットが受け持つことがよくあります。
待遇や勤務体系など総合的に考えて、条件のいいパイロットの仕事につきたいと考える人がほとんどです。
まとめ
日本でエアラインパイロットを目指すなら、おすすめは自社養成です。航空大学や私大からパイロットを目指すのであれば、直近の卒業生の就職状況を必ず確認してください。また、海外でパイロットを目指す場合も、事前の下調べや情報収集をしっかり行いましょう。
どういうルートであれ、パイロットを目指すなら英語は必須です。パイロットの採用試験を受けるまえに、英語の勉強はしっかりしておきましょう。
コロナで先行きが不透明な部分はあるものの、パイロットの採用は今後も続くことが予想されます。しっかり準備をして、ぜひ夢をかなえてください。