
航空管制の用語ってわかりづらいなあ……

航空無線って英語力ないと理解できないのかなあ……
航空管制は原則として英語を使っています。ただ、専門的な用語を知らないと、英語力があっても理解できません。
私は英語を独学してアメリカでパイロットとなりました。航空無線は日常的に利用し、世界各国の航空無線事情について熟知しています。
ここではそんな私が、航空管制の用語について詳しく解説します。
この記事を読めば、航空管制の無線交信がすぐ理解できるようになります。
航空管制の用語と流れ【出発編】
エアラインなど飛行計画にもとづいて運航される航空機は、航空管制の指示で飛行します。高度や方位だけでなく、空港内でゲートから出るときや誘導路上で動きだすときなども、すべて「許可」が必要です。
出発機は、管制官の担当エリアを通過するたびに、周波数を変えて次の管制官にコンタクトします。

航空管制の流れについては以下の記事で詳しく解説しているよ!
【航空管制官になるには】仕事の中身と受験方法をパイロットが解説!

ここでは、架空のアルファ航空101便が、羽田空港から関西空港まで飛行すると仮定して、航空管制の流れをご紹介します。解説のためのシナリオのため、実際の航空管制を簡潔化しています。
クリアランス・デリバリー
日本では飛行機がゲートから出る5分前に、目的地までのクリアランス(飛行許可)をもらうのが一般的です。
- 飛行機:Tokyo Delivery, Alpha 101, 5 minutes to push back and start. Destination Kansai, requesting flight level 280. Gate 56.
- 管制官:Alpha 101, Tokyo Delivery, cleared to Kansai Airport via Jyoga One Departure, flight planned route. Maintain flight level 200, expect flight level 280. Squawk 3654.
- 飛行機:Alpha 101, cleared to Kansai, Jyoga One Departure, flight planned route. Maintain 200, expect 280, squawking 3654.
- 管制官:Alpha 101, read back is correct. Contact ground on 118.22.
飛行機:118.22, good day.
- request・・“~を求める”
- cleared to・・“~まで許可”
- via・・“~経由で”
- flight level・・国際的な基準で1万8,000フィート以上はflight level 180と3桁で表示
- squawk・・スコーク。管制官がレーダー上で認識するために飛行機に割り当てられるコード
グラウンド
飛行機のドアがすべて閉まり、ゲートから牽引車で押されて動きだす際も管制塔の許可が必要です。次のようなやりとりになります。
- 飛行機:Tokyo Ground, Alpha 101, request push back, Gate 56.
- 管制官:Alpha 101, Tokyo Ground, push back approved.
- 飛行機:Push back approved, Alpha 101.
プッシュバックした飛行機は定位置で停止し、牽引車を取り外します。自力で走行する準備ができると、また管制官に許可を求めます。
- 飛行機:Ground, Alpha 101, ready to taxi.
- 管制官:Alpha 101, runway 05, taxi via E and D.
- 飛行機:E and D to runway 05, Alpha 101.
EやDは誘導路につけられているアルファベットです。航空管制ではAからZのアリファベットを聞き間違えないよう、Phonetic Alphabet(フォネティック・アルファベット)と呼ばれる用語を使います。EとDの発音も、以下のPhonetic Alphabetの読み方にならって発音します。
- A・・Alpha
- B・・Bravo
- C・・Charlie
- D・・Delta
- E・・Echo
- F・・Foxtrot
- G・・Golf
- H・・Hotel
- I・・India
- J・・Juliet
- K・・Kilo
- L・・Lima
- M・・Mike
- N・・November
- O・・Oscar
- P・・Papa
- Q・・Quebec
- R・・Romeo
- S・・Sierra
- T・・Tango
- U・・Uniform
- V・・Victor
- W・・Whiskey
- X・・X-ray
- Y・・Yankee
- Z・・Zulu
飛行機が滑走路に近づくと、管制官からタワーの周波数に切り替えるよう指示があります。
- 管制官:Alpha 101, contact Tower on 118.725.
- 飛行機:118.725, Alpha 102. Good day.
タワー
タワーは滑走路周辺の飛行機を担当します。
- 飛行機:Tokyo Tower, Alpha 101, ready.
- 管制官:Alpha 101, Tokyo Tower, hold short of runway 05, you’re number three.
- 飛行機:Roger, hold short of runway 05, number three, Alpha 101.
- hold short of・・“~の手前で待機する”
- roger・・“了解”
タワーが出発機に“number three”と言っているのは、離陸の順番です。この場合、別の出発機2機が前にあることを意味します。
いよいよ離陸の順番がまわってくると、次のような交信になります。
- 管制官:Alpha 101, runway 05, line up and wait.
- 飛行機:Line up and wait, runway 05, Alpha 101.
- 管制官:Alpha 101, wind 360 at 5, runway 05, cleared for takeoff.
- 飛行機:Cleared for takeoff, runway 05, Alpha 101.
- line up and wait・・“滑走路内に入って待機する”
- cleared for takeoff・・“離陸を許可する”
“wind 360 at 5”というのは、風が360度(真北)から5ノット吹いているという意味です。
飛行機が離陸し、車輪を格納したぐらいのタイミングで、次の周波数に変える指示が出ます。
- 管制官:Alpha 101, contact Departure. Good day.
- 飛行機:Alpha 101, roger. Good day.
ディパーチャー
飛行機が離陸し上昇を始めると、ディパーチャーにコンタクトします。
- 飛行機:Tokyo Departure, Alpha 101, passing 2,000, climbing to 200.
- 管制官:Alpha 101, Tokyo Departure, radar contact. Climb and maintain flight level 200.
- 飛行機:Roger, climb to 200, Alpha 101.
- passing ~・・“~を通過中”
- climb・・“上昇する”
- radar contact・・“レーダーの画面上で機影をとらえている”
- maintain・・“維持する”
東京湾を旋回して機首を西に向けようとしている飛行機に次のような指示も出されます。
- 管制官:Alpha 101, fly heading 200 for vectors to Taura.
- 飛行機:Roger, heading 200, Alpha 101.
- fly heading~・・“方位~度で飛行する”
- for (radar) vectors to~・・“~まで誘導します”
headingは機首の方位です。真北を360度とし、東を90度(090)、南が180度(180)、西が270度(270)となっています。この例では200度で飛行せよという指示なので、南西の方位です。
実際にTauraという航路上のポイントが三浦半島近くにあります。管制官はそこまで誘導するので、とりあえずいまは200度の方位で飛びなさいと指示を出しています。
三浦半島を過ぎるあたりでまた周波数の変更です。
- 管制官:Alpha 101, climb and maintain flight level 280. Contact Tokyo Control on 120.5.
- 飛行機:Climb to 280. 120.5, Alpha 101. Good day.
航空路管制
高い高度の水平飛行している飛行機などを管轄するのが、航空路管制と呼ばれる管制官たちです。日本では次の4つの航空路管制があります。
- 札幌航空交通管制部
- 東京航空交通管制部
- 福岡航空交通管制部
- 那覇航空交通管制部
羽田から関西空港まではすべて東京航空交通管制部の区域です。無線では“Tokyo Control”と呼びます。
- 飛行機:Tokyo Control, Alpha 101, passing 9,000 for flight level 280.
- 管制官:Alpha 101, Tokyo control, proceed direct Kowa
- 飛行機:Roger, direct Kowa, Alpha 101, thank you.
- proceed direct~・・“~に直行する”
Kowaは実際に知多半島にある航路上のポイントです。紀伊半島にさしかかると、降下を始め、管制官から新たな周波数の指示が出ます。
- 管制官:Alpha 101, descend and maintain 12,000. Contact Kansai Approach on 120.25.
- 飛行機:120.25, Alpha 101. Good day.
- descend・・“降下する”
12,000はふつうの英語読みならtwelve thousandです。航空管制では、聞き間違えを防ぐため、one two thousandと読みます。
航空管制の用語と流れ【到着編】
到着機に高度や方位、速度などの指示を出すのはApproachと呼ばれる管制です。Approachの管制は、飛行機に矢継ぎ早に指示を出すことが多く、やりとりが多くなるのが特徴です。
アプローチ
- 飛行機:Kansai Approach, Alpha 101, descending to 12,000. Information C.
- 管制官:Alpha 101, Kansai Approach, fly heading 270 for vectors to ILS Y runway 06L final approach course. Descend and maintain 10,000.
- ILS・・instrument landing system(計器着陸システム)
- final approach course・・最終の進入コース
Information Cというのは、無線で定期的に配信されている空港の気象情報のことです。ATISと呼ばれ、それぞれの情報にアルファベットがついています。ここでは、C(チャーリー)をパイロットは入手していることを管制官に伝えています。どの気象情報をパイロットが入手しているかを管制官に伝えることで、古い情報なら、アップデートされた気象情報があることを管制官は教えてくれます。
runway 06LのLはleftの意味です。滑走路が並行して2本ある場合、方位の数字(ここでは06=60度)にleftやrightを付け加えて、どちらの滑走路かわかるようにしています。
- 管制官:Alpha 101, turn right heading 350, reduce speed to 210 knots.
- 飛行機:Reduce to 210, right turn heading 350, Alpha 101.
- turn right・・“右に旋回する”
- reduce speed to~・・“~に速度を落とす”
空港に近づくと、飛行機どうしの間隔が狭くなるため、管制官はほかの飛行機との衝突を避けるため注意を促すことがあります。
- 管制官:Alpha 101, traffic at one o’clock 6 miles, southeast bound Boeing 737 at 6,000, climbing.
- 飛行機:Traffic in sight, Alpha 101, thank you.
- at one o’clock・・“1時の方向に”
- southeast bound・・“南東方向に向かっている”
- traffic in sight・・“トラフィック(=ほかの飛行機)視認”
最終の着陸態勢に入ると、空港へ向けての進入許可が出されます。
- 管制官:Alpha 101, 5 miles from Jenny, turn right heading 020, descend and maintain 4,000. Cleared for ILS Y runway 06L approach.
- 飛行機:020 heading, 4,000, cleared for ILS Y runway 06L, Alpha 101.
- 管制官:Alpha 101, contact Kansai Tower on 118.05
- 飛行機:118.05, Alpha 101. Good day.
- cleared for~・・“~を許可する”
Jennyは最終の進入を開始する航路上のポイント名です。各空港のアプローチの種類ごとにポイント名は異なります。
タワー
到着機は進入の許可が出ると、タワーに引き継がれます。
- 飛行機:Kansai Tower, Alpha 101 with you, 9 miles out on ILS Y 06L.
- 管制官:Alpha 101, Kansai Tower, proceeding traffic just touching down. Wind calm, runway 06L, cleared to land.
- 飛行機:Cleared to land 06L, Alpha 101.
- with you・・“こちらの周波数で交信中”
- proceeding traffic・・“前を飛ぶ飛行機”
- touch down・・“タッチダウンする=車輪が滑走路に接地する
- wind calm・・“風はなし”
- cleared to land・・“着陸を許可する”
飛行機は無事着陸。滑走路から誘導路に曲がるときにはこんなやりとりが交わされます。
- 管制官:Alpha 101, turn right at B-6, contact Ground on 121.65.
- 飛行機:B-6, 121.65, Alpha 101. Thank you.
グラウンド
誘導路に入ると、飛行機は再びグラウンドにコンタクトします。出発地の羽田では、滑走路までの“道順”を指示されましたが、到着地の関西空港ではその逆、ゲートまでの誘導路の指示を受けます。
- 飛行機:Kansai Ground, Alpha 101, Gate 25.
- 管制官:Alpha 101, Kansai Ground, taxi via J-4, give way to Korean Air 737 coming from your left.
- 飛行機:Taxi via J-4, give way to Korean Air, Alpha 101.
- taxi・・“地上走行する”
- give way to ~・・“~に道をゆずる”
悪天候や緊急事態時の無線交信
悪天候のときには交信の頻度が増えます。飛行機は積乱雲や雷の近くを避けて飛行しようとするためです。
緊急事態のときの航空管制用語もあわせてご紹介します。
悪天候の回避時
悪天候を飛行すると、飛行機は大きく揺れます。安全性に影響はありませんが、乗客の快適性のため、積乱雲や雷の近くを避けて飛行します。
管制官が気を利かして、悪天候を回避するheadingを指示してくれることもあります。ただ、ほとんどの場合はパイロットからのリクエストです。次のような表現を使います。
「悪天候のため方位020をリクエストします」という意味です。due to~は “~のために”という理由を表します。
ここのweatherは「悪天候」の意味です。積乱雲という場合には、単語の頭文字をとって“CB”や “build-up” といいます。
また、deviate(回避する)やdeviation(回避)という単語を使う場合もあります。たとえば次のような言い方です。
(悪天候のため5マイル航路の左側に回避することをリクエストします)
緊急事態時の無線交信
飛行中、もしくは地上滑走中に緊急事態が起きたときは、次の用語が使われます。
- Pan-pan, Pan-pan, Pan-pan.
- Mayday, mayday.
違いは、本来はMaydayのほうがより切迫したときに使うことになっています。ただ、現実的には区別なく、パイロットが使いやすいほうを使っています。
航空管制を理解するには
航空管制はこの記事でご紹介した専門用語を多用しています。ただ、航空管制はもともと英語圏でスタートしたため、ふつうの英語がベースになっています。このため、最低限の英語力は必要です。
最低限とは中学英語程度です。複雑な文法まで細かく理解する必要はありません。


最低限理解していれば安心という中学英語の基礎については、以下の記事で詳しく解説しているよ!
中学英語が難しいという人へ!この文法と問題集で乗り切れます!



日本の航空管制は難しくない
一定の英語力があり、基本的な専門用語をマスターしていれば、日本の航空管制は難しくありません。基本に忠実な言い回しをしているからです。会話調の英語でペラペラと無線交信することはありません。
いっぽうで、将来、管制官をめざしているなら話は別です。外国のエアラインパイロットのなかには、専門用語ではなく、一般の英会話に近い口語的な表現を使う人もいます。簡単な英会話ぐらいは、できるようにしておく必要があるでしょう。


航空管制官に求められる英語力は以下の記事で解説しているよ!
【航空管制官に必要な英語力】現役パイロットが実態と対策を公開



アメリカの航空管制は英語力が必要
同じ航空管制でも、アメリカ国内での交信を理解するには、かなりの英語力が必要です。
日本のエアラインに入って、国際線に乗務する場合もあるでしょう。アメリカでは、英語が母国語だけあって、ちょっと込み入った話は、専門用語ではなくふつうの会話となります。込み入った話だと日本語でしてしまう日本の航空管制とは大違いです。
特に渡米してパイロットライセンスの取得を考えている人は、事前に現地の航空管制を聞いて、自分の英語力を把握するといいでしょう。
【海外でパイロットになる】コロナの影響や留学費用を経験者が解説!



国によっては英語を使わない場合も
中国などでは、自国の航空機とのあいだでは、中国語で交信しています。海外の航空機に呼びかけるときだけ、英語で話します。さらに余談ですが、世界のパイロットや管制官の世界では、高度を表すときフィートを使いますが、中国ではメートルを使っています。
カナダ東部も、自国機に対してはフランス語です。ドイツなどのヨーロッパ諸国では、通常の便名を無線交信では使っていません。航空管制当局が割り当てたアルファベットと数字を組み合わせた特殊なコールサインを使っています。
航空管制もそれぞれのお国事情が反映しています。
まとめ
航空管制で使われる英語は、世界の共通語ともいえます。お国事情があるとはいえ、世界のどこを飛んでも、航空管制の用語は理解されます。
ただ、最低限の英語はおさらいしておきましょう。あとは、基本的な専門用語を覚えて、何度も聞いて耳を慣らせば、決して難しいものではありません。